たまごどんは、たんぽぽさんのところで風俗嬢について議論している。議論は「高報酬に惹かれて自発的に性産業で働く女性が居るか」であり、何故かはよく分からないが、議論相手の脳内では「そんな人は居ない」とされているようだ。

週末を利用して読んだのが、日本の風俗嬢(中村淳彦、新潮新書)である。ブックオフで購入してすぐに読み終えた。

最初にお断りしておけば、「お金のために腹をくくって裸の世界に飛び込み、涙を流しながら性的サービスを提供している」といったイメージはすでに過去のものである。どこにでもいる一般女性がポジティブに働いている。高学歴の者もいれば家族持ちもいる。これが現在の普通の光景である。(p13)

経済的理由で仕事をするのはどの仕事でも同じである。(中略)お金のために働くのは当然であるはずなのに、こと性風俗となると人々の反応は突然ずれてくる。「極めて特殊な理由があって生い立ちや環境が不幸な女性が、やむを得ずにカラダを売っている」「極端に派手で遊び好きで、どうしようもない消費好きな女性が身を落としている」といった認識がいまだに根強い。特にこうした認識を持つ人は四○代以上に多いように思う。
確かに九○年代まではそうした特別な理由がある女性が目立った。後者のイメージについていえば、実際に濡れ手で粟の大金を手に入れた風俗嬢たちが派手に消費をしていた。しかし二〇〇〇年代から現代に至っては風俗嬢の性質は大きく変わっている。
一般女性が普通の仕事として風俗を選択し、さして疑問を抱くことなくポジティブに働いている―これが現実だ。(P108-109)


本書によると、風俗業界が供給過剰による過当競争になったのは、1999年の風営法改正により無店舗型風俗店が届出だけで開設できるようになったこと、インターネットの普及により高収入求人サイトが誰でも見られる環境になったことが大きいそうです。その結果どうなったか。

供給過剰なので雇用する性風俗店と客による女性の選別が始まる。容姿を中心とした外見スペックだけでなく、接客サービス業なので技術、育ちや性格や知性などを含めたコミュニケーション能力が加味されて、性風俗がセーフティネットではなくなり、選ばれた女性が就く職業になってしまった。(P139)

このために、知的障害を持つ女性や容姿やコミュニケーション能力に劣る貧困女性は、風俗嬢にすらなれない現実がある。すると彼女たちは危険な個人売春に向かうしかない。

「これまでの性風俗は、反社会的な存在でありながらも、経済的に困窮した人たちのセーフティネット、つまり『反社会という名の社会』として機能していると考えられていました。性風俗がなくなったら路頭に迷ってしまう男女が大勢いるから、たとえ問題があっても今のままがいい、という現状肯定派が主流でした。でも、セックスのデフレ化が進むにつれて、性風俗をセーフティネットとして利用できるのは一握りの女性だけになってしまった。」(P223-224)

風俗嬢が求めているのは、安全な職場だ。性風俗の世界は働く女性が個人事業主扱い(業務委託契約)で、店側の正式な雇用契約が無い。すると、労働基準法が適用されない。長時間労働、罰金制度、社会保険への未加入が風俗嬢を苦しめている。店側の人間が傍にいる店舗型営業も規制によりその数を減らしているのだ。

たまごどんにとって興味深かったのは、p242から始まるフェミニズム思考の弊害だ。

多くの風俗嬢が求めているのは、命や健康を守るうえで必要な人権を保障する前提として、「性風俗を職業として認めてほしい」というだけのことだ。誰もが持っている普通の権利を求めているだけだが、そこに立ち塞がるのは「女性の味方」を自任するフェミニズム的な思考だという。「女性は性的な行為をして金銭を授受してはいけない」という一見もっともらしい思考が、かえって事態をややこしくしているというのだ。(p242)

要氏によれば、この種の「女性の権利を拡大したい」という思考が、かえって風俗嬢たちの安全や健康を脅かす大きな矛盾を生んでいるという。風俗嬢の命や安全を脅かす大きな問題が目の前にあっても、その具体的な対策や改善を考えるのではなく「男たちに性奴隷として働かされている風俗嬢を救済しなくては」といった方向に、運動が向かってしまうのだ。(p243)

性風俗をいかに理念や道徳先行で捉え、規制しようとしても、存在をなくすことはできない。規制を厳しくすれば、グレイゾーンだったものが闇に潜むようになるだけである。もうそろそろ建前での議論をやめて、性風俗業は社会にとって必要であり、あること自体を当然と考えた方がいい。そのような認識が浸透し、現実的な議論が進むことで、安全な環境の下で安心して働けるという風俗嬢たちの最低限の権利が、一日も早く実現することを願うばかりである。(p245)


たまごどんも中村氏の意見に賛成する。というか、フェミニズムの方は性の自己決定権を取り戻せと主張していて、オランダの売春婦を理想としていたと記憶しているんだけどなあ。記憶違いなんだろうか。