2018年06月11日

捏造の科学者を読んだ

ブックオフで購入した捏造の科学者(須田桃子,文藝春秋)を読み終えた。たまごどんも当時は小保方博士のことをよく取り上げていて(その1その2その3その4(笹井氏の自殺))、今読み返してもそんなにピント外れなことは書いていないようなので安心した。もっとも、小保方さんの再現実験成功という記事を引用していたのがアレだけど、今となってはかえって貴重な情報かな?

著者の須田桃子氏は毎日新聞科学環境部の記者で、STAP細胞のプレスリリースから関与している方だ。そのため、最初の興奮状態から疑惑の発生に至った経緯が生々しい。笹井芳樹 CDS(理研発生・再生科学総合研究センター)副所長、若山照彦 山梨大教授とのメールでのやり取りやヒアリングは、実に興味深かった。若山氏は論文のアクセプトまでにSTAP細胞を再現しないとと焦りながら、小保方氏にやり方を確認し、彼女から培地を送ってもらい、数十回もトライしている。しかし、iPS細胞より遥かに効率よく発生するはずのSTAP細胞は姿を現さなかった。(p204-241)

小保方氏は不正が明らかになった段階で、若山教授にその罪を負わそうとしている。しかし彼の無実は意外な経過で明らかになった。STAP細胞研究チームがWeb上で公開していたSTAP細胞の遺伝子配列情報のデータから、八番染色体にトリソミー(通常2本の染色体が3本になっていること)が見つかったという。これはたかだか1週間の培地で出来たとされるSTAP細胞ではありえないことだ。

一連の研究を通して、STAP細胞は塊として評価されている。ここは重要な点なので、本文から引用しよう。

>論文では、STAP細胞を常に塊の状態で性質を調べ、キメラマウス作製などの万能性を証明する実験でも、バラバラの細胞ではうまくいかなかったため、塊のまま受精卵に注入している。査読者は「それでは、一個のSTAP細胞が、胎児と胎盤に分化する能力があるのか分からない。」「本当に多能性を持っているのか十分に証明できていない」と指摘した。塊の中に、胎児だけになる細胞と、胎盤だけになる細胞が入り混じっているかもしれないからだ。(p310)

>小保方氏らは査読コメントが返ってから追加実験に取り組んだが、(中略)万能性の証明実験を単一細胞でやり直した形跡はない。(p311)

須田さんは疑惑が明らかになるにつれ、なぜこうした不正が起きてしまったのかに興味が移っていく。彼女なりの回答は、iPS細胞という画期的な成功により京都大学iPS細胞研究所が2010年に設立されたことで、CDSに焦りがあったというものだ。その焦りは、CDSに小保方氏を採用する後押しをし、そして共同研究者ですら再現できなかったSTAP細胞の成功を既成事実とした。一流科学誌のネイチャーの焦りもあったようだ。山中教授のiPS細胞に関する論文はセルに掲載されたもので、どうしてもSTAP細胞をネイチャーは載せたかったのだろうと須田氏は推測している。ネイチャーの編集者は、査読者が指摘した疑問点(上記の多能性の証明)や修正点を十分に反映させることなく、記事掲載を決定した。

査読資料の精査を依頼されたある専門家の言葉が、この騒動を的確に表現しているようだ。
「一流誌への投稿に慣れ、幹細胞分野での信用もある笠井氏や丹羽氏が著者に入ったことで、STAP論文は初めて論文としての体を成し、編集者も賢明な判断ができなくなったのではないでしょうか。くさった丸太を皆で渡って、たまたま折れずに渡り切れてしまったということでしょう。」(p323)

たまごどんはSTAP騒動でまだ分かっていないことがある。小保方さんの研究成果は本物だとする人たちがいて、そうした彼女を擁護している方々は、自然科学のルールに疎い層がほとんどなのだ。彼/彼女の動機は一体何なのだろう。この大衆心理について、だれか解説してくれないかなあ。
無題




th302d at 02:38│Comments(0)読書 

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