将棋と文才に溢れる異色の棋士である先崎九段は、去年の順位戦を休場した。この時点では原因が分かっていなかったが、彼は鬱病を患って闘病していた。なんでそれが分かったかというと、彼の書いたうつ病九段を読んだからだ。

鬱はこわい病気で、自殺リスクが極端に高くなる。たまごどんはそのことを頭では分かっていたつもりだったが、実際に先崎さんが自殺衝動を語るところはビビってしまった。こんなになるんだなぁ。この本を読んで初めて知ったが、先崎九段のお兄さんは精神科医なんだそうだ。彼の尽力もあり、先崎九段は慶応大学病院精神神経科に入院する。

棋士は這ってでも対局場に向かうべし。不戦敗なぞもっての他。将棋指しに受け継がれているこの精神に従い、先崎九段は何とかして不戦敗を避けようとするが、医師の先生と実の兄に説得されて3月末までの休場を決めた。もっとも鬱は物事が決められなくなる病気であり、どういった経緯で休場期間が3月末までとなったのかについては、本人にも記憶が無いそうだ。先崎さんの奥さんは囲碁棋士の穂坂繭さんで、彼女は「先崎学が将棋を指せないなんて‥」と泣き崩れた。そうだよなあ、将棋少年がそのまま大きくなったような人間だもんなあ、先崎九段は。

鬱の回復期に、彼は七手詰が解けなくなっていることに驚く。復帰に向けて将棋勘を取り戻そうと足掻く描写は面白く、本書の白眉かもしれないが、この辺りは実際に読んでもらうことにしよう。最後に、先崎九段の兄である精神科医の言葉でこのエントリを締めたい。

「うつ病は必ず治る病気なんだ。必ず治る。人間は不思議なことに誰でもうつ病になるけど、不思議なことにそれを治す自然治癒力を誰でも持っている。だから、絶対に自殺だけはいけない。死んでしまったらすべて終わりなんだ。だいたい残された家族がどんなに辛い思いをするか」
「修羅場をくぐったまともな精神科医というのは、自殺ということばを聞いただけでも身の毛が逆立つものなんだ。究極的にいえば、精神科医というのは患者を自殺させないというためだけにいるんだ」
(同書 pp173-174)

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